2011年5月27日金曜日

いい文章とは?

 WWは、「よりよい書き手」「自立した書き手」を育てることをねらいとしていますが、だからといって、「作品」の出来を無視しているわけではありません。

 今回は、「いい文章とは、どんな文章か」を考えてみたいと思います。

『ライティング・ワークショップ』(ラルフ・フレッチャー他著)を翻訳出版する前に、日本で出ている「いい文章」「いい作文」関連の情報を集めましたが、ピンとくるのを見つけることはできませんでした。ちなみに、指導要領の「書くこと」の項目では、小学校は低・中・高、中学校は学年ごとに、(1)課題・取材、(2)構成、(3)記述、(4)推敲、(5)交流、そして言語活動にわかれて書かれています。(もし見つけていたら、当然のことながらあえて翻訳までして出す必要はありませんでしたから。)

 前回の「書き手の思い、書き手らしさが伝わってくる声」(Voice)は、いい文章を書くときのとても大切な要素の一つです。他の要素としては、
  ・ 構成
  ・ テーマ(アイディア)
  ・ 言葉の選択
  ・ 文章の滑らかさ
  ・ 言語規則
があげられます(Creative Writers: Through 6-Traits Writing Assessment and Instruction, by Vicke Spandel ~ これらの要素の導き出し方がなんともアメリカ的です。一人二人の著名人/権威者を信じるのではなく、何百人の普通の先生たちに出してもらった結果を整理統合したものです)。他にも、「詳しさ」「ジャンルの知識」をあげる人もいます(Assessing Writers, by Carl Anderson ~ これはWWのカンファランスに焦点を当てたとてもいい本です)。

 これらの要素はいずれも、ミニ・レッスンやカンファランスや共有の時間で扱う大事な題材です。

 中でも、私はテーマと「書き手の思い、書き手らしさが伝わってくる声」がもっとも重要だと思っていますが、後者が日本の作文では言われることはほとんどないようです。それに対して日本では、言語規則や構成が事のほか重要視されています。しかし、中身や書き手の声がないのに(=書き手が本当に書きたいと思っていないものに)、構成や言語規則や文章の滑らかさや言語の選択に努力することにどれだけの価値があるのでしょうか? 構成は書く中身次第というところが多分にありますから、「型」から教えてしまうことには疑問を感じてさえいます。書き手の声が消えてしまうのではないかと。

 WWは、テーマと声を主軸にして、構成や言語規則のことなどはまずは考えずに下書きを書くアプローチといえます。(これが、子どもたちが書くことを好きになる秘訣の一つの気がします。)その後に行う修正の段階で(強弱をつけたり、カットしたり、詳しく書いたり、順番を変えたりといった判断も含めた)構成、言語規則、文章の滑らかさ、言語の選択、さらには場合によってはジャンルの変更なども身につけていきます。

 ですから大切なことを無視はしていません。順番が逆というか、優先順位が違うという感じです。

 さらに言えば、清書の一歩手前としてではなく、あくまでも「筆に語らせる」のが下書きということです。従ってそれは、あらかじめ考えたことを整理して書き出すのではなく、思いついたことを順番は気にせずに書く「ラフな原稿」です。
 そうなると当然、その下書きと清書の間の修正や校正の作業が事のほか重要にもなります。内容や書く対象が鮮明にイメージできるものは、子どもたちも繰り返しの修正をいとわなくなります。(好きになるといっても過言ではありません。)なんといっても、本当に伝えたいことはよりいい形で伝わってほしいですから。
 ということで、結果的に日本の作文や文章が大切にしている「構成、言語規則、文章の滑らかさ、言語の選択」なども、子どもが心底よくしたいと思う作品を使ってより一層磨きがかかります。

2011年5月21日土曜日

書き手の思い、書き手らしさが伝わってくる声

 毎週、金曜日に更新することになっているWW便りですが、昨日は更新できなくてすみません。

 さて、今日のタイトルは、「書き手の思い、書き手らしさが伝わってくる声」です。

 このタイトルの英語は、voice ですが、それを「声」とだけ訳してもなんだか分かりにくいので、私としては、「書き手の思い、書き手らしさが伝わってくる声」と、少し言葉を補って考えています。

「書き手の思い、書き手らしさが伝わってくる声」について、ここしばらく考えていましたが、それには二つの理由があります。

 1)WWで提出される作品を見ていると、「書き手の思い、書き手らしさが伝わってくる声」がしっかり感じられる作品と、そうでない作品があります。

 後者の方が、「一見、うまくまとめられている」ことが多くて、「あ、まずい!」と感じました。おそらく書いた生徒たちは、けっこう形になっていて満足しているのではないか、そんな気もしました。

 「書く」ということは、そんなにつまらないものでも、そんなに簡単なものでもない、それをなんとかして教えなくては、と思いました。
 
 2)最近の出来事です。ある人から、その家族にとっての、とても大切な思い出の品が送られてきました。私が、その品を、しばらく(多分今から20年ぐらい??)預かることになりました。その思い出の品が送られてきたときに、その品にまつわるエピソードが、数枚に渡って添えられていました。そのエピソードは、「書き手の思い、書き手らしさが伝わってくる声」に満ちあふれていました。

 さて、上の1)と2)のギャップについて、もう少し考えてみました。

 WW関連で多くのいい本を出版しているフレッチャー氏は、低学年よりも、高学年の方が、「書き手の思い、書き手らしさが伝わってくる声」のある作品を書くのが難しいと言っています。なんとなく分かる気もします。

 さて、フレチャー氏の本を手掛かりに、どうすべきかを、少し考えてみました。(以下のページ数は参照したページ数のメモです)。

 まずは、読者意識です。

 家族の思い出の品にまつわるエピソードを書き留める、というように、たとえ、読者がごく少数であっても、具体的な読者が念頭にあると、「書き手の思い、書き手らしさが伝わってくる声」が入ってくると思います。

 この読者意識は、顔の見えない(より多くの)読者に対して書くときも、応用可能です。

 フレッチャー氏は、出版するときに、その出版物を読む(必ずしも顔の見えるとは限らない)「読者たち」を、「一人の人」だと考える、と言います。そして、もし、そのひとりの人が、これを書いている自分を「一人の人」だと感じてくれれば、自分の言いたいことに耳を傾けてくれるのではないか」とのことです。そして、作家ノートに書き留めた「書き手の思い、書き手らしさが伝わってくる声」が入るようにする、とも言っています。(71ページ)

 また、フレッチャー氏は、以下のようにも言っています。

 「書き手の声とは、誰か実在の人が本当にそれを書いたのだ、とうことを感じさせてくれるようなものです。つまりどこかの委員会が書いたのでも、コンピュータが書いたのでもなく、ある人間が書いた、ということです」(68ページ)

 次はそのトピック(書く題材)と書き手の距離です。

 フレッチャー氏も、書く題材と書き手との距離が遠いと「書き手の思い、書き手らしさが伝わってくる声」が消えやすいことを指摘しています。(72ページ)

 これは、特に子どもたちがレポートやノンフィクションを書くときに、注意したいことです。

 もちろん、メンターテキストになるようないい作品を読むことは、とても有効な方法の一つです。
 (「メンター・テキスト」については、左上の検索を使うとたくさんのこれまでの記事が読めます。)

 また、フレッチャー氏は、子どもたちがあるトピックを消化する前に、つまり、子どもたちはそのトピックについてまだ書く段階に行っていないのに、そのトピックについてのエキスパートであるように書くように、急がせているのではないかとも言っています。(77ー78ページ)

 書き手との距離が遠いうちは、やはり、書き手の声や思いは入ってこないと思います。書き手とその題材の距離を近くする、このいい方法も、ミニ・レッスンやカンファランスで扱わなくては、と思います。


出典:

上で紹介したフレッチャー氏の本は以下の通りです。

Ralph Fletcher, What A Writer Needs (Heinemann, 1993).
この本の第6章(67-79ページ)が Voice つまり(書き手の思い、書き手らしさが伝わってくる)声で、この章を手掛かりに考えました。
                           






 
 

2011年5月14日土曜日

「私も、WWの授業では12分書いています!」

 前回、「教師も生徒たちと一緒に書く」ことの大切さを紹介したところ、日本女子体育大学附属二階堂高校で国語を教えている佐藤広子先生がメールをくれたので、高校での実践例を紹介します。

 「私は生徒にB5ノート1ページ以上60分で書くように言っているので、自分でもWWの授業中に1ページは書くようにしています。私の書くペースは、30行22字で平均12分です。12分は書いて、残りの時間、生徒全員のノートをのぞき込んで記録を取り、必要な生徒にカンファランスしています。共有の時間に読みたいという生徒がいない時は、私が書いたものを読む時もあります。」

 書く授業もですし、読む授業もですが、日本の教育全般で一番忘れ去られているのが、教師がいい見本を示すことではないでしょうか。懇切丁寧に教えることよりも、はるかに見本を示すことのパワーは大きいと思います。私たち人間は、いいモデルにとても弱いからです。「あれは、いい」と思ったら、「やってはいけません」と言われても関係ありません。無性に真似したくなってしまいます。
ですから、教師が楽しく書いている姿を見せることこそを、WWや作文の授業の根幹に据えるべきだと思うぐらいです。

 それを実現するためには、書き慣れていない教師は書き始めなければなりません。WWの生みの親のDonald Gravesは、最初は毎日10分ずつ書き始めることを薦めています。それが軌道に乗ったら、15分に伸ばし、ゆくゆくは20分(その場合は、10分を2回に分けてもOKです)に伸ばしていきます。徐々に、でいいです。(理想は、30分と書いていますが、無理しなくていいです。)書く内容は、なんでもOKです。書き続けることで、毎日新しい発見や学びがもたらされ、また世界の新しい見方に気づくこともできます。もちろん、自分のことをよりよく知ることも。
 その際、以下のようなアドバイスもくれています。「まずは、自分のために書く。他の人が読むかどうかは、後で考える」「あるポイントまでいくと苦痛/わずらわしさが、快感になる」と。そのポイントを超えると、快感の連続ですから、ぜひ試してみてください。(出典: Discover Your Own Literacy)

 もう一人のアドバイスも紹介します。読み・書きの分野ではたくさんの本を書いているFrank Smithは、クラスを「読み・書きクラブ」のようにしてしまうことを提案しています。部活動を思い出していただければいいと思いますが、とにかく好きな人たちの集まりです。うまい下手はいろいろあると思いますが、みんなさらにうまくなりたいと思っているところです。そんな中で、教師はみんなのモデルとなる存在です。「ああ、なりたいな~」という。(出典: Joining the Literacy Club)

 顧問的な立場でしか自分を位置づけていない方は、生徒たちの中にいるいいモデルをドンドン紹介することで、自分がモデルになる重荷から逃れることは多少できます。でも、自分もみんなと同じクラブの一員だよ、というメッセージは何らかの形で発信しないと、一人だけ浮き上がってしまうでしょう!
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2011年5月6日金曜日

教師も一緒に書く!

 伝統的な作文の授業における教師の役割は、①子どもたちが書くテーマを考えて、提示することと、②子どもたちが提出した原稿を添削・評価して戻すことが中心でしょうか?

 それに対して、WW(=書き手を育てるため)の教師の役割は、
① 書くモデルを示す
② 作家のサイクルや作家の技などを教える
③ 評価する/リサーチする
④ 計画し、ソフトやハードの環境を整備する
⑤ コーチないしコンサルタントとしてサポートする
の5つがあります。(◆これら5つ以外の役割を果たしている方は、ぜひ教えてください◆)

②の作家のサイクルや作家の技などは、主にミニ・レッスンを通して教えていきます。
③の評価する/リサーチすると、⑤のコーチないしコンサルタントとしてサポートするのは、子どもたちがひたすら書いている(教師にとっては、カンファランスの)間にします。
④は、主にはWWの時間以外でしますが、共有の時間でも行われます。

 これら4つは確実に行われていると思いますが、最もインパクトがあるにもかかわらず見落とされがちなのが、教師が実際に①書くモデルを示すことのような気がします。(②~⑤で頭がいっぱいで?)

 でも多くのことがそうであるように、私たちにはいいモデルが必要です。
 いいモデルが提供されると、「それをしてはいけない!」と言われても、やりたくなってしまいます。その意味では、教える必要などなくなってしまうというか、霞んでしまうぐらいです。それほど教師が実際に書いている姿はインパクトがありますから、毎回ではなくとも、ひたすら書く時間の最初の5分とか10分は一緒に書いてください。

 あるいは、自分が書いたものをミニ・レッスンでどんどん紹介してください。上手下手は関係ありません。教師もちゃんと書いている、あるいは何度も書き直しをしている、と伝わることが大切なんです。「書くことは大切なことだから君たちはやりなさい」と言うか言わないかは別にして、書く授業を実践し続けても、教師がまったく書いていないのでは説得力がありません。その意味では、授業のために書いたものよりも、実際に生活の中や仕事で使うものとして書いたものの方が効果はあります。書くことは生活の一部なんだ、というメッセージも同時に発信できますから。

 そして何事もそうかもしれませんが、教師が楽しんでやっているものは、子どもたちもやりたくなってしまうものです。まずは、書いてみてください。そして、(自分自身の再発見も含めて)楽しんでください。★

 きっかけになる本としては、『魂の文章術』ナタリー・ゴールドバーグ 著、『あなたも作家になろう』ジュリア・キャメロン著の2冊がオススメです。◆他にいいのをご存知の方は、ぜひ教えてください◆


★ そのための第一歩は、子どもたちと同じように自分でも「作家ノート」を持って、書いてみるのがいいと思います。