2011年9月30日金曜日

続・いい文章とは

 5月27日に「いい文章」の6つの要素を紹介しましたが、ある学校の研究発表会要綱と研究紀要を読む必要があったことで、一つ加える必要性を感じました。
 付け加えたい要素とは、「見ため」のいいことです。読む気をそそる「レイアウト」です。

 校内研究の研究発表会要綱や研究報告書は、全国的に同じ形態だと思います。良くも悪くも(おそらく、今となっては後者だけ?)、画一化が行き届いています。

 あなたは、読みたくなる研究紀要や報告書を手にしたことがありますか?★

 その答えのかなりの部分は、「レイアウト」というか「見ため」の問題が大きいと思います。たとえ、内容的にはいいことが書いてあったとしても、ぎゅうぎゅう詰めなので、最初から目を通す気すら起こらないのです。
 少ないスペースで(平等に割り振られている場合がほとんどです★★)、できるだけ多くの情報を盛り込もうとした努力の結果であることは伝わって来るのですが、読み手の読む意欲をそそるレイアウトや見ためがまったく考慮されていません。従って、読む気になれないのです。とても残念です。
 これは、読者の視点をまったくと言っていいほど考えていない結果とも言えます。★★

 「いいレイアウト/見ため=文字が書かれていないホワイトのスペースの多さ」では必ずしもありませんが、ホワイトのスペースの有効利用をぜひ考えてほしいです。同時に、小見出しも、文字の大きさや字体を少し考慮するだけで、まったく異なる見ためになり得ます。(同じくぎゅうぎゅう詰めの新聞や雑誌が参考になります。)

 ここまで書いてきて、フト気づきました。この文章も、見ため/レイアウトに無頓着であることを。(いいアイディアがありましたら、ぜひ教えてください!!)

 子どもたちが手書きで書く場合には、字のうまさも「見ため」の重要な要素として含まれることになります。実際に添削をして、この点に気づかない教師はいないと思いますから。


<以下、メルマガの続き>


 校内研究の紀要や報告書にはレイアウト/見ための問題以外にも、2つほど大きな問題があります。

 一つは、「指導案」という形態です。そろそろこの「指導案」という形態自体を見直す時期に来ています。これが続く限りは、子どもが主体的に学ぶ授業を最初から否定しているようなものですから。

 もう一つは、分担執筆です。大学の研究紀要や研究者たちが書く分担執筆の本が悪い見本になっているのかもしれません。分担執筆でおもしろい本や人に紹介したくなる本に出合うのは極めて稀です。執筆者同士が協力して互いの原稿を改善するための努力をせずに、ただ自分の書きたいことを書いているだけなのが伝わってきてしまうからです。相互に関連のない論文が、学校や大学の時間割のように、ただバラバラと並んでいます。(中には、編集者の努力で、何とか全体を通して読めるものもありますが、「執筆者たちの業績を上げるための本」=読者のことは考えていないことがもろに伝わってきてしまう本の方が圧倒的に多いです。)

★★ 校内研究の紀要や報告書も、この読者のことを考えて書かれているものがどれだけあるでしょうか?
もし読者の視点に立てたなら、参考になる・ならないの如何にかかわらず、たくさんの事例がほぼ均等に割り振られているということは起こらないと思います。参考にならないものはスペースが減らされたり、場合によっては消されたりするでしょうし、参考になるものはスペースが増やされたり、強調されるレイアウトになるはずだからです。要するに、校内研究の紀要や報告書で読み手を意識して編集が行われているものは、極めて稀なのが実態です。
 執筆に関わる人全員で(少なくてもチームで)、互いの実践を高めあったり、互いの原稿も高めあったりできれば、最低限の質は確保できるようになるはずです。その過程で、最低限の質が確保できないものは紹介しないし、校外にぜひ紹介したいと思えるもののみをしっかり選んで編集やレイアウトをしてほしいと思います。

★ 私が出会ったものの中では、新潟県上越市の高志小学校のが、この「悪習を脱した」研究報告書でした。

 ぜひ、読み手を意識した校内研究の紀要や報告書を作ってください。おそらく大分薄くなって、編集する者にとっても、読む者にとっても、ラクだし、作り甲斐/読み甲斐があるものになるはずです。


◆参考文献: 6+1 Traits of Writing, by Ruth Culham, from Scholastic ( +の後の「1」が見ため/レイアウトを指しています。「6」は、5月27日に紹介した「いい文章」の6つの要素です。)


●これでコメントが書きやすくなったのではないでしょうか? 
 あなたのご希望、疑問・質問、感想、実践紹介、各種情報提供等を、下のコメント欄に書いていただくか、あるいはpro.workshop@gmail.comに直接お送りください。必ず反応/フィードバックします。

2011年9月23日金曜日

ミニ・レッスンは1日にしてならず?

 私の場合、9月から、初めてWWを受講する学習者もかなりいます。そこで、ここしばらくは初回からのミニ・レッスンの準備をしていました。

 今学期は「作家ノート」を使っての学びを充実させたいと思っていますので、まずは「作家ノート」についてのミニ・レッスンの計画を立てました。

 「作家ノート」とは何かを教えるために、『ライティング・ワークショップ』の共著者、フレッチャー氏が「作家ノートは孵卵器のようなもの」(4月15日のブログをご参照ください)といっているところを、引用して紹介しようと思いました。

 そのあと、ドナルド・マレー氏(7月22日、7月23日他、何度かブログに登場しています)は「作家ノート」についてどう言っているのか、エイミー・バックナー氏(9月9日のプログをご参照ください)はどう言っているのか、等々、すぐれた書き手や教育者が、作家ノートについてどう言っているのか、あるいはどのように使うように言っているのか等々をいくつか集めました。

 また、すぐれた教育者がどのように作家ノートを導入しているのかも知ろうと、何冊か読み直したり、拾い読みしたりしました。

 もちろん、ミニ・レッスンで、自分の作家ノートも見せることにしました。

 そうやって準備しているうちに、作家ノートについてのミニ・レッスンでとりあげたいことがどんどんふくらんで行きます。もちろん、一度のミニ・レッスンで抑えることは不可能です。

 そこで立ち止まり、作家ノートについて準備したことを、複数回のミニ・レッスンに、順番を考えつつ割り振りを始めました。

*****

 RWでもWWでも、一つのトピックやテーマについて一連のミニ・レッスンを、何回か連続して行うことは、よくあります。作家ノート一つとっても、いろいろな使い方がありますし、その使い方を一度のミニ・レッスンで自分のものにはなかなかできません。何度か同じトピックを、角度を変えて取り上げたり、深めていったりすることは有効な方法だと思います。

2011年9月16日金曜日

作家ノートと読書ノートと

 作家ノートについて書かれたいい本と言われると、すぐに2-3冊の本が浮かびます
が、読書ノートについて書かれたいい本と言われると、浮かびま せん。
(もしご存知でしたら、教えてください。読みたいです。)

 この2冊のノートについて、ここしばらく考えてみました。思いがけず、いろいろと共
通点をみつけた気がします。

★ まず、どちらのノートも、あくまでも思考を生み出す場であり、そのための道
具である、と思います。(→ 目標になってはまずい、ということです)

 『リーディング・ワークショップ』(新評論、2010年)の11章は「話すことと書くこ
とを活かして読みと思考を深める」(189-207ページ)です。この章の中に、図や表
をつかってまとめることについて、205ページには以下のように書いてあります。私
は大いに賛同しますし、これに近いことが、読書ノートにも言えると思います。

 「絵や図表は、興味を掻きたてたり洞察を深めたりするのに役立ちますが、その一方
で、せっかく考えはじめたことを台無しにしてしまう場合もあります。その違いは、
絵や図表を子どもたちが一緒に考えるという目的を達成するのに役立てるのか、それ
とも絵や図表を描くこと自体が目標になってしまって、話し合いはただ絵や図表を完
成させるためにあるのかということから生まれます」

 目標ではなくて道具。ただ、そのための使い方は様々だと思います。

 また、どちらのノートも、先生によっては授業で教えたことを書きとめておく場所を
つくることもあると思います。

★ この2冊のノートの中でも、読むことと書くことが出会うことは多いように思います。

 例えば、作家の目で本を読み、自分が今度使ってみたい作家の技を書き留める。

 あるいは、読書ノートのメモから、あるテーマやある作家についての自分の関心をみつけ、そ
こから次の作品へのヒントを得る。

★ 教師は、どちらのノートも、子どもたちが卒業しても使いつづけてほしいと思っ
ているのではないかと思いました。

 ミニ・レッスンなどで使いかたを教えるのは、そこから少しずつ、自分なりのノート
のいい使い方を見つけていってほしいからなのでは? そのために、いい使い方のレパー
トリーが増えるように、ミニ・レッスンで教えていくのかなとも思います。

 また、教師が実際にこの2冊を自分用につくると、実際に役立たないことは、教えることから淘
汰されていくという利点もあると思います。

★ どちらのノートにも、読者(あるいは話し合う相手)の姿がちらちら見える気がします。

 「ちらちら」とい うのは、遠い将来だったり、近い将来だったりするからです。

 もちろん、読者(あるいは話し合う相手)がほとんど見えない書き込みもあると思います。 

 そして、読者の姿が、どこかにちらちら見えるノートが、実際の生活でも継続しやすいノートの
ような気もするのですが、皆さんはどう思われますか。

*****

作家ノートについてのお薦めの3冊は以下です。

『ライティング・ワークショップ』(新評論、2007年)の共著者でもあるラルフ・フ
レッチャー(Ralph Fletcher)が書いた次の2冊。

A Writer's Notebook  (HarperTrophy, 2003) 高学年向きに書かれています。

Breathing In, Breathing Out (Heinemann, 1996)

先週のRW/WW便りで紹介した、Aimee Buckner の Notebook Know-How (Stenhouse,
2005) 


2011年9月9日金曜日

ひとつの話は新しい話を生み出すきっかけとなる

 「(…略…)優れた読み手は、読んでいるときに頭を働かせています。そして頭を働かせていると、書くことがでてくるものです。ですから、子どもたちが、話、詩、記事などに耳を傾け、自分が考えたことを書きとめる時間を持てるようにするのは大切なことです」

 下手な私訳で恐縮ですが、上の文は作家ノートについて書かれた本 Notebook Know-How という本に出てきています。

 (この本は、『ライティング・ワークショップ』共著者のひとり、ラルフ・フレッチャー氏が前書きを書いているおススメ本です。すぐに自分の授業に使えそうな点もたくさんあります。)

 私が最近、特に注目しているのが、(作家ノートをうまく子どもたちに導入したあとに)作家ノートを、続けてどんどん書くことをサポートするような方法をいくつかも紹介している点です。(言うまでもなく、書けるようになるためには、書くことが必要です。)

 どんどん書くことをサポートする方法の一つとして、冒頭で紹介したように、「読むことを使う」というのがあります。

 この著者の場合は、短編や詩なども授業中によく使うようです。そして次のように、言うそうです。(以下も、下手なざっくり私訳ですみません)。

 「(…略…)今から詩を2回読むから、1回目はまずしっかり聞いて、読者として楽しんでね。2回目も聞いてほしいけど、2回目は、聞いている間に、何か考えが浮かんだり、つながりを見出したり、他にも何か書きたいことが出てきたら、書き始めていいですよ。そして、先生が2回目を読み終わったら、それについて話し合うことはせずに、思ったことを書いてみようね」

 もちろん、読むことは、上の例以外にも、「メンターテキスト」や「作家の目で読み作家の技に気付く」等、WWの中でいろいろと使えます。

出典:Aimee Buckner著の Notebook Know-How (Stenhouse, 2005). 最初の引用は24ページ、二つ目の引用は24-25ページです。

2011年9月5日月曜日

「秋の読書探偵」作文コンクール開催

早速、読むことと書くことをミックスした情報です。

「秋の読書探偵」作文コンクール開催! ~海外の小説や絵本を読んで、おもしろさを伝えよう!~
http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20110901/1314829931

しめきりは、2011年10月24日(月)消印有効。(メール応募の場合は日付が変わる前まで。)

2011年9月2日金曜日

WW便り → WW/RW便り に名称変更

これまでは「WW便り」でしたが、今回から「WW/RW便り」に名称を変更しました。
WWはライティング・ワークショップの略で、RWはリーディング・ワークショップの略です。

 夏休み中の書き込みがほとんど、よりよく書くための材料集め、つまりおもしろい/生徒たちに紹介したい本や、お気に入りの作家や、好きな言葉集めに関するものだったこともあり、これからは読むことと書くことを分けないで書いていくことにします。

 先日読んでいた本★にも、Every piece of writing stands on the shoulders of all the literature that came before it.(すべての書くものは、それ以前に書かれたものすべての肩の上に乗っている)と書いてありました。自分の書いたものも、あらゆるジャンルのものも含めて、です。

 また、読み聞かせが効果的なことは、『ライティング・ワークショップ』(ラルフ・フレッチャー&ジョアン・ポータルピ著)の第7章で詳しく書いてありますが、ルーシー・カルキンズ著の『リーディング・ワークショップ』の第3章でもRWの欠かせない柱の一つであることが紹介されています。ちなみに、読み聞かせの対象は年齢に関係ないとも書いてあります。大人ですら、講師/教師が好きなものを読み聞かせてもらうことには抵抗感がありません。読み聞かせは、学齢期前や低学年の子どもたちだけを対象にするものでは決してないのです。(方法ですから、あくまでも使い方次第ということです!)

 私の好きな『ギヴァー』の作者のロイス・ローリーさんも、よりうまく書くためにできることの筆頭にたくさん読むことを挙げています。

 次回からは、このブログ/メルマガを読まれる皆さんには、翌週はWWなのか、RWなのかという楽しみが増えたわけです。


★ 本は、Doing History (4th Edition), by Linda Levstik and Keith Bartonの123ページです。
 なぜ歴史の教え方を書いた本にこんな引用が出てくるの、と不思議に思う方もいるかもしれませんが、日本のように教科書だけを使った暗記中心の科目ではないという位置づけがあるからです。
 発想としては、本当に書いたり、読んだりすることを中心に据えたWWやRWと同じで、本当に歴史をする形で学ぶことはたくさん読んだり、書いたり(プラス話し合ったり)することを意味します。
 読んだり、書いたり、話し合ったりすることが、歴史だけでなく、地理にも、公民領域にも、そして読み・書きを含めたすべての教科で不可欠なのですが、残念ながら日本の多くの授業はまだそうなっていません。主体的に読んだり、書いたり、話し合ったりすることこそが一番よく学べる方法なのに。