2012年1月28日土曜日

効果的な作家のサイクルと読書のサイクル

シンプルな枠組みで、年間を通して書いたり、読んだりし続けることがライティング・ワークショップ(WW)とリーディング・ワークショップ(RW)の特徴です。その最たるものが作家と読書のサイクルです。

 作家のサイクルは、ご存知のように図1です。(『作家の時間』の91ページ)
 ジャーナリストも、詩人も、書く人たちは、このサイクルを繰り返し使っています。



 WWは、それを子どもたちが書くときにも使ったら、書くことが好きになり、かつ書くスキルも身につくのではないかと考えました。それは、みごとに当たりました。100%とは言えないまでも、95%以上の子どもたちは書くことが好きになり、かつ書く力を着けていきます。

 この図1に欠けていることを、いくつか補います。
・ まず、題材集めの前に、当然「日々の暮らし、体験、興味・関心、たくさんの記憶」などがあります。それらが、題材のベースです。★
・ 修正は、すでに下書きとして書いたものを単に「直す」というよりも、「新しい光る何かを見つける」(英語のre-vision)と捉えた方がいいです。
・ 作家のサイクルでもっとも特徴的なのが「出版」。それも、本当に存在する対象に向けて書くことだと思います。ですから、必ずフィードバック(ファンレター)をもらえるので、更なる書く意欲につながります。
・ 出版した後には、それに至る過程で学んだことを振り返ったり、身に着けたスキルを確認します。
・ 題材として決めたものが、すべて出版までこぎつけるわけではありません。10分の1よりも少ないと思います。下書きすらしないもの。下書きで消えるもの。修正で消えるもの。修正から下書きに戻るもの。出版の直前でボツになるものなど、いろいろです。その意味では、図の黒の矢印は片方に向いているのではなく、両方向に矢印がついていたほうがいい気がします。


 『リーディング・ワークショップ』を訳して紹介して、日本でも先生たちが実践するようになってから、「読書のサイクル」について考え始めています。
 WWの方は、作家、ジャーナリスト、エッセイスト、詩人・俳人等の職業が存在し、「作家のサイクル」や「作家の技」と言えるものも確固としてありますが、RWには職業として読書家はいませんし、「読書家のサイクル」や「読書家の技」と言えるものも存在していません。
 ですから、RWがWWを応用して始まったように、「読書のサイクル」も「作家のサイクル」を応用する形で考えてみました。図2をご覧ください。(ここ2~3年考え続けていますが、考えるたびにどういう言葉を使ったらいいのか揺れ動いています。従って、あくまでも現段階の暫定的なものとして紹介します。なお、これら2つのサイクルと行ったり来たりしていると、作家のサイクルにも若干違うルートがあってもいいのではないかと思えたりしますから、考え続ける価値は十分あると思います。) 

図2に解説を加えます。
・「一人/ペア読み」=「ひたすら読む」で、作家のサイクルの「下書き」=「ひたすら書く」に相当します。対象によって、一人で読む場合も、ペアで読む場合も、読み聞かせの場合もあり得ると思うからです。
・作家のサイクルの「修正」=「新しい光る何かを見つける」(英語のre-vision)に相当するものとして、読書のサイクルでは「ブッククラブ」を選んでいます。それが、理解や解釈を深めたり、広めたり、修正したりするのに役立つからです。
・作家のサイクルの「校正」に相当する部分は、読書のサイクルでは「読みの修正」になっていて一番弱いところです。何かいいアイディアがある方は、ぜひ教えてください。
・作家のサイクルの「出版」に相当するのは、読書のサイクルでは自分(たち)がこれはいいと思った本の「紹介」です。出版の場合と同じで、これを実際にする本は、全体の中のごく一部です。その方法は様々考えられます。中でも一番効果が薄いのは読書感想文と言えます。本当に読んでもらうには、何をどう紹介するのが効果的かを真剣に考えなければなりません。「紹介」というよりも、プレゼンテーションと言ったほうがいいぐらいかもしれません。
・図には描かれていませんが、紹介/プレゼンテーションに至る過程で学んだことを振り返ったり、身に着けたスキルを確認して、再び新しいサイクルを回していきます。

 いかがでしょうか?

 作家のサイクルと読書のサイクルのいいところは、本当の仕事でも使われていることです。ですから、学校の中だけで役立つ作文や読解と違って、生涯にわたって使えるものを身につけることになります。もちろん、これらのサイクルは、理科、社会、算数などそのまま他教科に応用することもできます。実際そうしていかないと暗記科目のままになってしまいますから、早急にアクションを起こすべきです。


★ 作家やジャーナリストやエッセイストや詩人や俳人は、特別な暮らしや体験や興味・関心をもっている人たちかというと、かならずしもそうではなく、それらをいろいろな切り口で見られる人たちのような気がします。従って、子どもたちにもそういう見方を身に着けてほしいわけですが、特に小さい子たちの場合には、たくさんの刺激的な生活、体験、興味・関心がもてる機会が大切だと思います。

2012年1月20日金曜日

ジャンルについて学ぶことを、「目的」という視点で見直す

「いろいろなジャンルの読み書きを教える・学ぶ」、これは、RWやWWで教えている多くの 先生が大切にしていることの一つかもしれません。

 RWとWWの両方で教えている先生でしたら、読み書きのつながりも意識しつつ、例えば「詩に浸る」とか、「ノンフィクションを読んで、調べたことをまとめる」というような、あるジャンルを中心に した一連のミニ・レッスンを組み立てることもあると思います。私自身も 「ノンフィクション」、「詩」のように、時期を決めて集中的に読むようにしたこともあります。

 しかし。。。

 今、Reading and Writing Genre with Purpose in K-8 Classrooms という本を読み始めているのですが、ジャンルを中心にした一連のミニ・レッスンを何セット(ジャンル)か組み立てて、「これでいろいろなジャンルも教えられる」と、安心してはいけないのだ、と思わされています。

 というのは、この本は、あるジャンルに焦点を当てて教えることを、「目的」という視点から、見直すことが必要だ、と教えてくれているように思うからです。

 また、一つのジャンルについて、例えば1ヶ月間のようにある一定期間、学び続ける場合に起こりうるマイナス点というか、そこから超えなければいけない点も、何点も指摘しています。

 その中で印象に残ったのは、そのジャンルの特徴を学ぶことに目が行き過ぎて、どうしてそのジャンルを使うのかと いう「目的」を見失うこともある、という点です。★

 たしかに、実際の生活において、どういうジャンルを選んで書く・読むのか(時には複数のジャンルを使うこともあるかもしれません)は、自分の、本当の読む・書く「目的」を、よりよく達成するために行うことだと思います。

 この本の著者たちは、自分の目的を達成するために、あるジャンルを選択してそれを「使う」ときに、そのジャンル自体も、子どもたちはよく学べると考えているようです。

 また、ジャンルを教える際の5つの原則も述べられていますが★★、その中には、行うのに十分な意味のある環境をつくる(伝えたい読者がいるなど)ことも含まれています。 

 そして、その目的を踏まえて、それを達成できるように、ジャンルの特徴やそのジャンルでの効果的な方法を教えていくーーそんな視点を、今、この本から学びつつあります。


出典:
 
Nell K. Duke, Samantha Caughlan, Mary M. Juzwik, Nicole M. Martin著 
Reading and Writing Genre with Purpose in K-8 Classrooms, Heinemann, 2012.


★ ジャンルに焦点をあてるときに注意すべきこと(マイナスになりうる点)については10-11
ページに書かれています。

★★ 5つの原則については16-18ページです。ちなみに、残りの4つは以下です。

○ 学んでほしいいろいろなジャンルの、質の高い作品に触れ、ジャンルを経験する。
○ ジャンルの特徴をはっきり教える。
○ 読むことにおいても、書くことにおいても、そのジャンルに役立つ効果的な方法を具体的にはっきり教える。(例えば、「予測して読む」という読み方でも、物語を読むときの予測と、ノンフィクションを読むときの予測とは違う)。
○ コーチングとフィードバックを継続して行う。

2012年1月13日金曜日

メンター・テキストから、それぞれが学ぶべきことを学べるようにする

 メンター・テキストを使って教えることは、読み書きのつながりを大切にする教育活動であり、かつ優れた作家から、その作家の使っている工夫や技巧が学べますから、極めて効果的な教え方だと思います。

 メンター・テキストについては、このRWWW便りでも、何度か取り上げてきました。


 ◎ メンター・テキストについては、2010年の9月17日のブログをぜひご覧ください。メンター・テキストが何かということを、改めて確認するのにいいと思います。メンター・テキストは、たとえば2010年10月1日2011年8月5日のブログにも登場しています。(画面左上の検索コーナーに「メンター・テキスト」と入力して、虫眼鏡をクリックすると、全部見せてくれます。)

 今日は、メンター・テキストを使うにあたって、今、読んでいる本から学んでいることを書きます。

 それは「メンター・テキストから、それぞれが学ぶべきことを学べるようにする」ことも大切だ、ということです。

 今、読んでいる本の題名は、ずばり Mentor Author, Mentor Texts (メンター・オーサー、
メンター・テキスト)で、『ライティング・ワークショップ』の共著者の一人の、ラルフ・フレッチャー氏による本です。

 いくら素晴らしいメンター・テキストだからと言って、教師が常に「このテキストからは、こういうことを学びなさい」と押し付けていると、WWはつまらないものとなってしまいます。

 「先生がフレッチャー氏の本を使って、子どもたちに氏のように書こうという活動を押し付けたので、子どもたちは辟易した」、という子どもの言葉も、この本の中で紹介されています。

 フレッチャー氏は、メンターテキストの中で、教師があらかじめ決めておいたある技巧や工夫に、子どもたちの目を向けさせるのではなくて、子どもたちがどこに目を向けるのかを、子どもたちに選べるようにすること、
またそれぞれに学んだことをどうするのか、という点についても、いろいろな選択肢があることも語っています。

 読み手として読むときにも、書き手として書き手の目で読むときにも、子どもそれぞれに注目する点も違うし、その時点で必要としていることも違う、そしてその違いをお互いに語ることで、またお互いに学ぶこともある、それはメンター・テキストを使う学びでも然り、そんなことを改めて思いました。



 出典:

 上で紹介したのは、Ralph Fletcher, Mentor Author, Mentor Texts、 Heinemann 2011です。

 子どもの言葉が紹介され、そこから、メンター・テキストをどのように教えるのかという点は、4-7ページに、読み方や読んだあとの選択肢については、12-14ページに書かれています。