2012年9月28日金曜日

読んでいるときに、行き詰ったら



 「読んでいて行き詰ったら、読むのをやめるよ」

 冒頭の「読んでいて行き詰ったら、読むのをやめるよ」は、9年生(日本でいうと中学校3年生)のルーク君の言葉です。この言葉は、高校で教えながら教員研修にも関わっているクリス・トバニ(Cris Tovani)の本の中に出てきます。★

 この本によると、どうやらルーク君はあまり読むのが得意でないようです。ルーク君の率直な答えに驚いた先生は、クラスの子どもたちに、読んでいて行き詰ったときにはどうしているのかを尋ねます。残念ながら、ルーク君以外の子どもたちも、あまり読むのが得意でないようで、「何もしない」、「100回読んでみる」、「もっと一生懸命考える」等々、あまりぱっとしない答しか出てこなかったようです。

 私自身、国語でも外国語でも「読んでいて行き詰ったとき」にどうするのか、ということをはっきり教えてもらった記憶はほとんどありません。「何度も読めば、そのうちに分かる」とか「とにかく辞書で調べなさい」等々の、今、思うとほとんど助けにならないことを、誰かに言われたような記憶はあります。

 (「ほとんど助けにならない」と書きましたが、「何度も読む」場合は、その「読み直し方」次第で、行き詰まりの打開につながることもありますから、「打開につながる読み直し方」を教える必要があります。同様に、「辞書で調べる」にしても、その調べるタイミングと調べ方を間違うと、かえって訳が分からなってしまうので、こちらも「いつ、どうやって調べるか」を教える必要があります。言い換えれば、どちらも、具体的に、役立つ読み直し方や調べ方を教えないかぎりは、「ほとんど助けにならない」ということになります)。

 上のようなことも含めて、先生がどうやって解決しているのかを、「考え聞かせ」★★で、みんなにミニ・レッスンで教えるのもいいかもしれません。

 でも、ミニ・レッスンで教えるだけでなくて、ぜひ、カンファランスのポイントにも、と思います。

 というのは、読みにくい箇所も、その解決方法も、子どもによって様々だと思うからです。カンファランスで、読めているかどうか確認するときに、子どもがどんな解決方法を持っているのか(知っているのか)、そしてそれを使えているのか、なども見ていければと思います。

出典:
 
     クリス・トバニCris Tovani氏の本、I Read It, But I Don’t Get It (Stenhouse, 2000)の、第5章は、上のルーク君のセリフで始まり、この章の最初の2ページ(4950ページ)で、行き詰ったときに、どうしていいのか分からない子どもたちの様子がよく描かれています。また、この同じ本の51ページに「行き詰ったときにやってみる方法」も紹介されています。

★★ 「考え聞かせ」については、『「読む力」はこうしてつける』(吉田新一郎、新評論、2010年)の71ページに次のように説明されています。
 
「読む時、私達は『優れた読み手が使っている方法』を意識するかしないかはともかくとして使っています。しかし、頭の中で起こっていることですから、それは見えません。この読んでいる時に考えていることを言葉にして表すことを『考え聞かせ(think aloud)と言います」

 なお、この本のパート2では、「優れた読み手が使っている方法」を、具体的にどうやって教えるのかという事例が数多く紹介されています。

2012年9月21日金曜日

アンケートの回答


国立の中高一貫校で国語を教えているSさんからのアンケートの回答(青字)を紹介します。

1)読み・書き、聞く・話すのご自分の実践で自慢できることを、ぜひ教えてください。
 6
月に子どもの臓器移植がありましたので、これを題材にして、中2の生徒と新聞記事を読んだり映像を観たりしながら、考えたことを話したり書いたりする、という授業を行いました。 → 死とは何かの話に直結しますから、いろいろな考え方がでてきたでしょうね。

2)WW&RW絡みで解決したい課題がありましたら、お知らせください。
 「わかったつもり」や、「できているつもり」、の人達に対し、問題点を指摘しつつ「その気」にさせるにはどうしたらよいか、を考えています。地道に一人ずつ対応していくのが一番なのかな、とも思いつつ。 →  量が多いので、下をお読みください。

3)前回まで「WW&RW便り」でおもしろかった/参考になったものがありましたら、教えてください。
 本物に浸る(その2)のインタビュー記事を授業に使うというプランは面白かったです。「日本版」があったらいいのにと思います。「聞き書き」のレッスンをどこかでしたいな、という気持ちもありますがなかなかよい素材を見つけられていません。 → アメリカの中・高レベルの最高峰の「聞き書き」の実践として、アパラチア山脈の中で40年以上展開しているTheFoxfireがあります。地域の老人たちの聞き書きを集めたものです。調べてみたら、なんと、日本ですでに応用版がありました!! その名も、「聞き書き甲子園」。好きですね、このアプローチ。求められているのは、年間を通した積み重ねなのですが・・・。要するには、地元の老人たちで十分だと思います。また、テーマによっては老人たちに限定する必要もないわけで。

4)他の学校の先生と一緒にやってみたい読み書きについてのプロジェクトがあったら教えてください。
 さきほど書いた「子どもの臓器移植」など、ある一つのトピックをもとに意見を交換しあう(ディベートではなく)とか「読み」を交換しあうとかいうような、プロジェクトができたら面白いと思います。異学年でも同学年でもどちらでやってみてもおもしろいのでは。。。 → 自分たちだけでなく、親や地域まで巻き込めたら面白いかも。The Foxfireは大切なものを記録に残して、発信するという活動なのですが、こちらは情報を作り出して発信するというか、考えるきっかけを自分たちの周りにも提供する活動として。

5)本について教えてください。
 最近読んで面白かった児童文学の本
 『ギヴァー』も『てん』もですが、面白かったというより突き刺さってきた感じです。反省なしには読めませんでした。 → それは、失礼しました。両方とも私にとっては「これ以上元気にしてくれる本はない」ということで紹介していますが、受け取り方というか解釈は様々ですね。
最近読んで面白かった読み書きに関する本
 貧弱な読書量で恐縮ですが『読む力はこうしてつける』は、非常に興味深く、自分の授業に導入するつもりで読んでいます。
 教室の中でつかってみて、とてもうまくいった本
 藤嶋昭著『時代を変えた科学者の名言』(東京書籍)から、科学者の名言をいくつか紹介して解釈させたところ、なかなか面白いものを書いてくる生徒がいました。 → 早速、借りてきて読みました。大人が読んでも面白いと思いました。書いたものを紹介し合うことは、したのですか? 結構、読む人の知識や体験で解釈は多様になり得るな~、と思いました。
今、クラスで人気のある作家たち
 ごめんなさい、現在はわかりません。担任している高3の生徒達は、ようやく受験参考書を開いたところです。7月中旬までは卒業研究があり、各々のテーマに関連する本を読んでいました。勤務校ではもともと自分の好みにしたがって読みたい本を読んでいる生徒が比較的多いように思います。図書館や国語からの宣伝不足もあるように思いますが。


    <メルマガからの続き>


2)WW&RW絡みで解決したい課題がありましたら、お知らせください。

「わかったつもり」や、「できているつもり」、の人達に対し、問題点を指摘しつつ「その気」にさせるにはどうしたらよいか。

3人の「WW&RW便り」執筆者による3通りの回答です。

→ ① graphy
難問です。同じような問題をもっている子が多ければ、もちろんミニ・レッスンで扱えるとは思うのですが、そうでなければ、同じ問題をもっている学習者を集めてのグループ・カンファランスか、地道にひとり一人対応していく個人カンファランスになるようには思います。
 しかし、1クラスの人数の多い場合、これは本当に困難です。私も人数の多いクラスではできていません。
 そうなると、「気になっている子の問題点に焦点を当てつつ、クラスの多くの子が必要としているようなトピックもいれたミニ・レッスンを考える」、という選択肢も考えないといけないのかもしれません。
 あとは共有の時間でしょうか。先生から見て、この問題点を解決するようないい例をいくつか紹介するとか???
 ただ、大人でも、それぞれに分かったつもりになっていて、実はそうではないことが多いので、ミニ・レッスンや共有の時間を使った全体へのアプローチの場合、やはり効果は低いのかもしれませんし、いかにその個別例をうまくおさえられるか、がポイントになるようには思います。
 なお  参考になるかどうか分かりませんが、少し前に、小学校の低学年のカンファランスの例を聞いて、なるほど、と思ったことがあります。
 そのカンファランス例からは、「できているつもり」の人は、決して、悪気も何もなく、その方法しか知らないことが、よくわかりました。
 それに対して、先生が問題点を指摘するようなこともありませんでした。
 とはいえ、その問題点にそれとなく気付かせるような投げかけをしつつ、「もっといい方法を教えるというカンファランス」で、本当に見事だと思いました。

→ ② てる
読むことに関しては、レター・エッセイ(読んだ本について手紙に書く)などの自分の読みについて書く課題を与えると、読めていないと書けないので、読めているつもりになれないのかもと思いました。
書く課題を与える際に、自分の考えに理由を書くこと(テキストを書き抜いたり、コピーしたものを貼るなど自分の考えの根拠を提示させる)など課題の指針を明確に与えておくと、よりわかったりつもりとか、できるているつもりとか、読んだふりとか予防できるのではないかと思いました。ナンシー・アトウェルもレター・エッセイの課題では、自分の考えには理由を書くことだと指針を生徒に与えています。
「テキスト+自分の考え」が読むことであると読むことの定義を明確にするなどもいいと思います。その上でレター・エッセイの課題をやれば、テキストがない自分の考えだけでは読めたことになりませんし、逆にテキストから自分の考えや意味が出てこなければそれも読めたことにならないと自分で自分を評価できるのでないでしょうか。
レター・エッセイは先生に書く場合と、クラスメイトに書く場合があり、読んでいる相手がいるので、その気になりやすいかもしれないです。

書くことで思い出したのは、一枚文集という実践です。子どものよく出来ている作品一つをとりあげて印刷して読み合う実践です。
ミニ・レッスンなどで扱った内容でよくできているもの選んで、読み合います。いいと思ったところに線をひかせたりします。ひかせないこともあると思います。どこかよかったかなど問いかけて作文を共有します。
引用からはじまる書き出しがよかったとか、五感を効果的に使って書けているとか、いろいろ な意見が出てくると思います。
モデルに勝る教育はなさそうですし、とても効果的ではないかと思っています。意欲の面でもクラスの子の作品を使うのは効果があると思っています。
生活綴り方などの流れの先生がよくされている実践です。

→ ③ shinlearn
単純に、その子たちに聞いてみる/問いかけてみるというアプローチはいかがでしょうか?
人数によりますが、口頭で聞いてもいいし、アンケート的な形で書いてもらってもいいし。そこからやり取りがスタートです。
さらに単純で効果的なのは、ペアないし三人で話し合ってもらう方法かもしれません。




2012年9月14日金曜日

読者アンケート


ぜひ、下のアンケートにお答えください。
全部でなくとも、答えられるもの/答えやすいものに。
(回答は、下のコメント欄か pro.workshop@gmail.comにお願いします。)

1)読み・書き、聞く・話すのご自分の実践で自慢できることを、ぜひ教えてください。
2)WW&RW絡みで解決したい課題がありましたら、お知らせください。
3)前回まで「WW&RW便り」でおもしろかった/参考になったものがありましたら、教えてください。
4)他の学校の先生と一緒にやってみたい読み書きについてのプロジェクトがあったら教えてください。
5)本について教えてください。
  ① 最近読んで面白かった児童文学の本
     最近読んで面白かった読み書きに関する本
      教室の中でつかってみて、とてもうまくいった本
      今、クラスで人気のある作家たち


私の5)の①は、『海にはワニがいる』(ファビオ・ジェーダ著、早川書房)
文学ではありませんが、『ミイラになったブタ』(スーザン・クインラン著、さえら書房)
ノンフィクションは、フィクションと同じぐらいに大事です!! というか、おもしろいです。(いま~9月28日現在~読んでいるのは、『1421 中国が新大陸を発見した年』ギャヴィン・メンジーズ著)です。★

②は、『せんせい、あのね ~ ダックス先生のあのねちょう教育』(鹿島和夫著、ミネルヴァ書房)

④(クラスではなく、私個人の今、人気の作家)は、アーサー・ビナード。
『さがしています』(童心社)、『くうきのかお』(福音館書店)など、です。


★ これを読んでしまうと、いったいバスコ・ダ・ガマやコロンブスやマゼランなどの「新大陸発見」と教えられた私たちの歴史教育は何だったのか? と思わされてしまいます。

2012年9月7日金曜日

本物に浸る(その2) ~RWWWと英語も好きな先生は、作家との楽しいひとときを~

 「次に何を書いたらいいのか分からない時? 1日に100回ぐらいあるよ」
 「次の文に何を書くのかが分からないのが、自分の毎日だよ、だって、いいものを書きたいと、もがいているから。書けないという障壁に当たっているのではなくて、これこそが、書くっていうことなんだよ」

 下手なざっと訳ですみませんが、上の文は『クリスピン』(金原瑞人訳、求龍堂、2003年)でニューベリー賞を受賞した児童文学作家 アヴィ(Avi)が、「作家の筆がとまるとき」について、インタビューで述べていることです。(それ以外にも、いろいろと興味深いことを語っています)


 このインタビューはインターネットのhttp://www.readingrockets.org/から見れます。

  同じサイトでは、シャロン・クリーチ(Sharon Creech)の『あの犬が好き』(金原瑞人訳、偕成社、2008年)の中で、「詩なんて女の子の書くものだから、男は書かない」とか言いつつも詩を書き続けた主人公の少年ジャックが、深い敬愛の情を持って語るウォルター・ディーン マイヤーズ(Walter Dean Myers)のインタビューもあります。ウォルター・ディーン マイヤーズは、インタビューの最初から、自分の生活の中の「書くこと」について述べています。

 上の二つは、まさに本物の作家たちが、書くことについて、直接、語ってくれているのですが、それを聞きながら、76日のRWWW便りの「本物に浸る」を思い出します。

 このサイトは、英語でのサイトですが、先生に優しいサイトです。なんと、100人以上の児童文学作家のインタビューとそのインタビューを書き起こしたものまで載っています。その中では、書くことだけでなくて、読むことについて語っている作家も、もちろんいます。

 インタビューが載せてある作家は、姓順にアルファベットでならんでいて、その一覧のアドレスは、以下です。
http://www.readingrockets.org/books/interviews/

 先生が使いやすいように、インタビューのビデオも、トピックごとに分けて編集しているので、インタビューを書きおこしたものを見ると、見たい場面もすぐ見つかります。

 
 インタビューでは、作家たちは、書くこと、読むこと以外にも、作品や自分の人生についても語ります。

 『ありがとう、フォルカー先生』(香咲 弥須子訳、岩崎書店、2001年)の著者のパトリシア・ポラッコは、自分を変えた先生との出合いも語りますし、ロイス・ローリー(Lois Lowry)は、もちろんあの名作『ギヴァー: 記憶を注ぐ者』(島津やよい訳、新評論、2010年)についても語ります。

 上記のサイト以外にも、作家のインタビューは、英語ですと、インターネット上で検索すると、いろいろと見ることができます。それらから、「書くこと」、「読むこと」について作家たちから学ぶこともできますし、ある作家についてより深く知ることで、その作品を、今までとは違うように楽しむこともできます。

*****

 RWWW関係の文献は英語でいいものがたくさん出ています。RWWWに興味のある先生たちは、英語の文献を読む先生が増えてきているように思います。興味があればどんどん読める、これは日本語でも英語でも大きいのだろうと思います。

 英語を教えている私は、小学校での英語教育ということを考えるときに、教える先生たちが、まず英語に触れることを楽しむ時間が多くあってほしいと思います。

 RWWWをしている先生には、このサイトから、自分や子どもたちのお気に入りの作家のインタビューを聞く(そして必要に応じて、インタビューを書き起こした文で確認する)のはいかがでしょうか? インタビューの長さは作家によってかなり違いますが、フォーマットは決まっているのと、先生に優しくつくってあるので、何かと便利です。

 そして、そこから、RWやWWの時間に子どもたちに紹介してあげられる知識も、先生の中に増えてくるように思います。作家の顔がわかるだけでも、なんだか近くなる気がしませんか?

 新学期、忙しい中で、少しほっとしたいときは、作家との楽しい時間はいかがでしょうか? 上のサイトでは、自分の作品を読み上げてくれる作家までいます。