2017年1月27日金曜日

「これから読む本、順番待ちの本」

 RWでは、以下の引用のように、子どもたちに、「これから読む本」を考えておく(準備しておく)ことの大切さを教えることもあります。

 「ある本を読み終わるまではかなりいいペースで読んでいたんだけど、次に読む本を探している間は読むのが中断してしまうんだよね。こういうことがないように、『これから読む本』とか『順番待ちの本』をあらかじめ決めておいて、読み終わったあとに次の本をすぐにスタートできるようにしている人もいるんだよ」(『リーディング・ワークショップ』176ページ)

 そこで今回のRWWW便りは、「教師も自分の読書生活を豊かに!」ということで、「次に読みたい本」とその理由を、何名かの人に書いていただきました。(最後の1冊は、私が書きました。)

 紹介のラインアップは以下です。
 
1. 2つの作品を読んで、さらに読んでみたくなった浅田次郎、次は『一路』
2. 折りにふれて読んできた田中克彦。次は『田中克彦自伝』
3. 民間企業以上に、ブラック残業(?)が多い日本の学校という職場で、本当に必要なことは何かを考えさせてくれそうな期待感のあるデービッッド・アトキンソンの『新・所得倍増論』
4. 地元の図書館で「現在の予約1117件」だった宮下奈都の『羊と鋼の森』

 <2つの作品を読んで、さらに読んでみたくなった浅田次郎、次は『一路』>

 職場の人から浅田次郎の作品をすすめられ、読んでみました。1冊は『蒼穹の昴』は清朝末期の時代の中国の話。皇太后が出てきます。 これは、なかなか読み応えのある作品でした。 読み終えた後、中国の歴史についてもっと知りたくなりました。
 もう1冊は、『壬生義士伝』新選組の吉村貫一郎という実在の人物について描かれた小説。 おもしろいと思ったのは、この小説の作りです。 吉村貫一郎本人の視点で書かれた部分と、貫一郎を知る複数の人の語りの部分が 交互に書かれています。その事で、吉村貫一郎という人物の生き方・考え方がより鮮明に浮かび上がってくるようになっています。
 二つの作品を読んで、浅田次郎の作品をほかにも読んでみたいと思いました。次は『一路』を読もうと思っています。

<折りにふれて読んできた田中克彦。次は『田中克彦自伝』>

 言語学は大学の教職課程で勉強しただけであまり魅力を感じていませんでしたが、教員になってから知人に薦められて読んだ田中克彦著『ことばと国家』(岩波新書)が面白かったです。それ以来、田中克彦氏の著作を折に触れて読んできました。『ことばの差別』『国家語をこえて』『法廷にたつ言語』『差別語からはいる言語学入門』『チョムスキー』『ノモンハン戦争』など。「たたかう言語学者」と言われてきているようです。そんな氏の自伝『田中克彦自伝:あの時代、あの人々』が出ました。生い立ちから大学時代までを扱ったものですが、読むのが楽しみです。

<民間企業以上に、ブラック残業?が多い日本の学校という職場で、本当に必要なことは何かを考えさせてくれそうな期待感のあるデービッッド・アトキンソンの『新・所得倍増論』>

 先日、日本電産の永守重信社長がラジオのインタビューに登場しました。年間365日働き続けるモーレツ社長が、時間外勤務廃止に取り組んでいるということ。電通問題などで、多くの企業が、労働時間の短縮に取り組もうとアピールしていますが、永守改革では、単なる時短ではなく、「生産性」改革に挑んでいるとのこと。

 そんなおり、目にとまったのが、デービッッド・アトキンソンの『新・所得倍増論』(東洋経済新報社)。この本のキーワードは「生産性」なのだそうです。技術面でも労働意欲の面でも世界一流と、自画自賛してきた日本。その「昭和の常識」に挑んだ意欲作のようです。GDP、輸出額、研究開発費どれをとっても世界上位の日本。しかし、それを国民一人当たりに換算するとかなり下位に位置するのだそうです。筆者の見解によると、スペインやイタリアより低い生産性なのだそうです。いったい何が問題なのでしょうか?ぜひ、知りたいと思いました。

 民間企業以上に、ブラック残業が多い日本の学校という職場。本当に必要な仕事は何なのか?今やっている多くの業務は、本当に子どもたちのためになっているのか?アトキンソンの指摘する生産性の問題と何か関係があるのではないか?何かヒントが得られるのではないかと期待しています。


<地元の図書館で「現在の予約1117件」だった宮下奈都の『羊と鋼の森』>

 知人のブログで紹介されていた宮下奈都の『羊と鋼の森』を地元の図書館で検索したところ、複数冊あるのがすべて「貸出中」。それで予約をいれたところ、「現在の予約数 1117件」と出てきました。1000件を超す予約のある本に予約を入れたのは初めてです。以前、上橋菜穂子さんの『鹿の王』が600ぐらいの予約数で1年ぐらい待ったので、今回の本は2018年に読むことになるのかもしれませんが、楽しみです。

*****
  
 それぞれの「次に読みたい本」を見ながら、以下の引用を思い出しました。

 「私たちが読むという経験を広げて深めることは、読むことを教えるときに活きてきます。しかし、教師が本を読む最も大切な理由は、楽しみながらオンを読むことで教師自身が元気になったり、励まされたり、慰められたりする姿を子どもたちに見せることができ、本を読むとはどういうことなのかを教えられるからです」(『リーディング・ワークショップ』78ページ)

 2016年度もあと約2か月、何かと忙しい時期かと思いますが、「次に読みたい本」も増やしていきたいです。

2017年1月21日土曜日

理解するための語彙力と解像度を上げる


思考を深める、とよく言われますが、考えていることをどのような言葉を使って表現するのかということは常に大きな問題です。言語と思考の関係をどのように考えていけば、人に伝わる言葉を生み出せるのかという、表現者にとってたえず大切な問題に正面から切り込んだ本が、梅田悟司さんの『言葉にできるは武器になる。』(日本経済新聞出版社、20168月)です。
  梅田さんは繰り返し「自分の内なる言葉」を持つこと、それを掘り下げていくことが、表現する人として忘れてはならない大切なことだと言っています。

結論から言えば、内なる言葉を磨く唯一の方法は、自分が今、内なる言葉を発しながら考えていることを強く意識した上で、頭に浮かんだ言葉を書き出し、書き出された言葉を軸にしながら、幅と奥行きを持たせていくことに尽きる。64ページ)

コピーライターらしく、主張を簡潔に示した言葉で各節が締めくくられています。「とにかく書き出す。/頭が空になると、/考える余裕が/生まれる。」(91ページ)とか「自分の/可能性を/狭めているのは、/いつだって/自分である。」(134ページ)というぐあいに。何か、私自身に宛てられているような気にさせられる本です。文章を書くことに少しでも苦労したことのある人であれば、その人の内側の苦労を言い当てられたような思いを抱く本だとも言えます。
  『理解するってどういうこと?』の「資料G」には「読書感想文に代わる方法」として「書くことで考えたことを共有する方法」「描くことで考えたことを共有する方法」「話し合うことで考えたことを共有する方法」「演じることで考えたことを共有する方法」があげられています。読みっぱなしにせず、読むことが好きになって、読む力がついていくための方法があげられているのですが、梅田さんの方はそのときに読者の「内なる言葉」を「外」に出す知恵をたくさん示しています。
  感想を話し合うにしても、感想文を書くにしても、その「自分の内なる言葉」を言葉にできるかどうかが鍵となります。「自分の内なる言葉」を豊かにしていくということはもちろん大切なことです。これがなければ先に進むことができません。
  一つ一つの言葉がいちいち心に響く本なのですが、それはたとえば次のような考えでつらぬかれているからなのでしょう。

大切なのは、内なる言葉の存在をはっきりと認識し、内なる言葉の語彙力と解像度を上げることである。その上で、外に向かう言葉を鍛える方法を知ることにこそ意味がある。
  話すべき内容である自分の思いがあるからこそ、言葉は人の心に響いたり、人の気持ちを動かすことができるようになる。どう言うか、どう書くかではなく、自分の気持ちを把握した上で、自分の意見をどう伝えるか、どう書ききるか、でなければならない。145ページ)

「自分の意見をどう伝えるか、どう書ききるか」? そのために「言葉のプロが実践する、もう1歩先」とはどのようなものなのか。その見出しだけを引用させていただきます。
   たった1人に伝わればいい〈ターゲッティング〉
   常套句を排除する〈自分の言葉を豊かにする〉
   一文字でも減らす〈先鋭化〉
   きちんと書いて口にする〈リズムの重要性〉
   動詞にこだわる〈文章に躍動感を持たせる〉
   新しい文脈をつくる〈意味の発明〉
   似て非なる言葉を区別する〈意味の解像度を上げる〉

それぞれがどういうことなのかということについては、本書(204ページ~252ページ)をお読みください。たとえば、①では「平均的」な読者というものは存在しないという言葉に納得し、たった一人に向けて書きながらも、そのことを対象化していくことが重要だという言葉に納得しました。⑤の「動詞にこだわる」で彼が言っているのは、「体験の幅」を広げることで、「内なる言葉」を伝えるための「動詞の幅」が広がる、ということです。また⑦では、「意味の解像度を上げる」ために、たとえば「解消と解決」「性質と本質」等の「似て非なる言葉を区別する」ことが必要だ、とも書かれています。
  これらは、コピーライターという言葉のプロだからこそ気づくことのできることなのかもしれませんが、本書に示されている〈方法〉を使ってみることで、本を読みながらたくさんの「自分の内なる言葉」をたくわえることができるようになり、それらを人に伝えられるようになるのではないでしょうか。それは、日常の諸事をより鮮明に「わかる」ようにするための処方箋でもあります。

 

2017年1月13日金曜日

自分が読んでよかったと思える本を紹介し合えるクラスづくり


子どもたちに学期に終わりにアンケートをとると、いつも一番人気はクラスメイトによる本の紹介です。そのコツを、7年生の声を中心に紹介しながら、お教えします。

10 計画が大事
 「みんなの前に立つ前に、何を話したらいいか、知っていないといけない」「言いたいことを書き出しておくと助けになる(でも、棒読みはダメ!)」本のタイトル、著者、ジャンル、簡潔な要約、そして自分の感想は、不可欠の要素。でも、以下を読んでいただけると、他にもあります。
9 最後までしっかり話す
 「最後で台無しにしてしまっては、自分が紹介した本を読みたくなる人はいません」
8 しっかり聞いている人の目を見て
 「いい本の紹介のポイントは、目を見て話すこと。誰の目を見ていなかったり、用意した原稿を読んだりしていては、こちらの熱意が伝わらない」
7 短く、楽しんでもらえる内容で
 「30秒じゃ身近すぎるし、5分も話していたら、飽きちゃう。2~3分がいいところ。その中に伝えたいことを盛り込む。それだけじゃなくて、楽しんでもらえるようにする」
6 珍しい本を紹介する
 「誰もが知っている本を紹介しても、喜ばれない」 ~ でも、たまにはそういう本でも、違う視点に気づいてもらいたいような時は例外です。
5 本の一部を読むのはインパクトがある
 「本を代表するような文章を短く読むことは、その本がどんな本で、どういうふうに書かれているのかを生に伝えるいい方法」
4 言い過ぎないで、もったいぶって
 「?マークが聞いている人たちに残った方が、本を手にとってもらえる可能性は高まる」
3 プレゼンテーション
 「聞いている人たちに受け入れられる形で表情豊かに話す」 ~ 主役は、聞く人たちで、紹介しているものではないことをわきまえる!!
2 一冊だけでなくて、本のつながりを強調する形で、複数の本を紹介する
 読み手たちは常にいい本を探しているので、関連する複数の本を紹介するとありがたがられる!
1 本のおもしろさが伝わるように
 「その本への紹介者の思いというか、こだわりというか、本の面白さが聞き手に伝わることが、その本を読んでもらうための最大のポイント」

以上を参考にしながら、クラスの子たちが相互に本を紹介し合える時間をひんぱんに作ってください。★それが、子どもたちが読みたくなる最も効果的な動機づけになるはずです。教師よりも、教科書よりも、何よりも。
英語ですが、このクラスの子どもたちの本の紹介を張り出したものを紹介します。
https://padlet.com/katsok/ncte

★ ここで紹介されたコツは、フォーマルな紹介の仕方ですが、これらの要素の多くはインフォーマルに紹介し合う際にも当てはまるものがほとんどだと思います。その意味では、教師がしっかりモデルを示すところから繰り返し練習することで、スキルとして紹介の仕方を身につけると、ほかのプレゼンをするときに応用できるまでになります。これは、とても大切なスキルではないでしょうか?

2017年1月6日金曜日

RW関連の本の中で出てきた児童書よりのお薦め

 RW関係の文献を読む中で、様々な場面で紹介されている児童書や絵本を読むことが増え、お気に入りの作家も増えました。

 今日はその中から、小学校の中・高学年ぐらいからの本で、邦訳が出ているものの中から、私のお薦めを何冊か紹介します。皆様のご存じの本が多いかもしれません。
 
★ ルイス・サッカー

『歩く』 

➡ 有名な『穴』のスピンオフ作品ですが、私は『穴』よりずっと引き込まれました。私は、ルイス・サッカーは少し不器用な少年を描くのがとても上手だと思います。『歩く』では、主人公にすっかり応援モードになってしまい、その不器用さにちょっとハラハラしながら読みました。ルイス・サッカーの作品の中で、多分、一番好きな作品です。

 ★ キャサリン・パターソン

➡ 『テラビシアにかける橋』で有名な作家ですが、私は 『ガラスの家族』がお気に入りです。『リーディング・ワークショップ』190ページにも登場している本で、不貞腐れた感じの主人公はなかなか魅力的ですし、終わりかたに主人公の成長を感じます。

★ アヴィ

『星条旗を永遠なれ』

➡ ドキュメンタリータッチの、ありえない?展開の本、でも、ありえるかも、と思わせてしまうところが見事だと思いました。この本の終わりかたもなんとも言えません。

 アヴィは幅広い著作があり、その幅広さも魅力の作家です。翻訳されている本が少ないですが、「ざらっ」として感じが残る話もいくつか書いていて、個人的にはそういう感じも好きです。

★ シンシア・ライラント

 シンシア・ライラントと言えば、ニューベリー賞を受賞した『メイおばちゃんの庭』が有名です。『メイおばちゃんの庭』は愛するおばちゃんの死別に途方にくれる人たちを描き、死というテーマで読むときには、その1冊としてぜひ読みたいです。好き嫌いが分かれるかもしれませんが、親子関係を描いた『優しさ』も、私は興味深く読みました。

★シャロン・クリーチ

 シャロン・クリーチはニューベリー賞を受賞した『めぐりめぐる月』が有名です。彼女の本は、どこか不思議な雰囲気があったり、複数の物語が同時進行しているような印象を受ける本もいくつかあります。

  その中では、比較的不思議さが少なめ(?)の『ルビーの谷』、大人たちに愛されずに育った子どもたちの話です。

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★ ウイルソン・ロールズの『ダンとアン』。少年と犬2匹の話。『リーディング・ワークショップ』161ページに登場します。 ひたむきな感じが好きです。

★ ジェリー・スピネッリの『クレージー・マギーの伝説』。これもリーディング・ワークショップ194ページに登場します。これはかなり昔に読んだので記憶があいまいですが、なかなかの名作だった記憶があります。

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 ルイス・サッカーからシャロン・クリーチまでの、最初の5名は、いつの間にか私のお気に入り作家になり、他の本もたくさん読みました。

 私は英語を教えているので、いつも学習者が英語で読める本ということが頭のどこかにあります。

 上の本ではシンシア・ライラントの『優しさ』だけ日本語で読みましたが、上の5名は比較的、英語も読みやすいと思いますので、英語の好きな方はぜひどうぞ。まだ邦訳されていない本でいい作品もけっこうあります。